広島高等裁判所岡山支部 昭和25年(ラ)7号 決定
本件抗告の要旨は、抗告代理人において「原決定を取り消す。本案判決確定に至るまで、仮りに一、相手方は抗告人所属組合員に対し昭和二三年一一月分については四千五百円ベース、同年一二月分以降については五千円ベースによる賃金を組合員中請取者に対しては昭和二四年一月分以降の賃金として生計手当を支給しなければならない。二、相手方は抗告人に対し相手方備付の賃金台帳等従業員の給与、労働時間について記載する帳簿の閲覧をさせねばならない」旨の決定を求めその理由として
一、相手方は、大阪市に本店を置き岡山市巖井二〇九一番地に工場を有する護謨製品の製造販売を目的とする株式会社であつて抗告人は右岡山工場従業員を以て結成する労働組合である。
二、昭和二三年一一月一五日当事者間に
(イ) 同年一一月分の暫定賃金として男女平均賃金四千五百円を支給する。
(ロ) 同年一二月分以後の賃金は暫定的に男女平均賃金五千円を支給する。
(ハ) 暫定賃金の配分方法は組合会社の協議の上決定する。
(ニ) 右交渉は同年一一月一六日から再開する。
(ホ) 生産能率向上のため会社組合協議して行う。
旨の新賃金協約が成立したが相手方は該協約による賃金の支払をしない。
三、抗告人は昭和二四年七月二六日岡山県地方労働委員会に右協約履行その他の紛争につき斡旋を申請し斡旋委員は相手方の協約履行義務を確認し相手方に対しその旨勧告したが相手方は結局これを拒絶した。
四、叙上の新賃金協約は抗告人が昭和二三年九月抗告人組合結成直後から当時平均三千円台に過ぎなかつた相手方従業員の賃上げ交渉をした結果抗告人所属組合員の賃金につき成立したもので右協約に謂う平均賃金は抗告人所属組合員の平均賃金の趣旨である、このことは同協約は相手方の回答書を以て示した協約と同旨の条項を抗告人において了承するという形式で成立したるも抗告人は回答書の条項を了承するに当り協約により抗告人所属組合員のみ賃上げせられては組合員以外のものが可愛想であり、又、組合員と組合員以外のものとの間の感情がまずくなつてはいけないと考え相手方に対し回答書のベースによる賃金はこれを抗告人所属組合員に対する暫定賃金として了承するが、組合員以外にもこれに準ずるベースによる賃金を支給するよう希望を付した事情に徴しても明白である。
五、当事者間には前記新賃金協約成立当時抗告人所属組合員中請取者(出来高払賃金を受ける者)に対しても常傭者(時間給賃金を受ける者)と同様生計手当を支給する旨の協約が成立し相手方は昭和二三年一一月及び一二月分の支給をしたが翌二四年一月分以降の支給を停止した。
六、しかし、抗告人は相手方に対し抗告人所属組合員の右新旧ベースの差額である不足未払賃金の請求訴訟を準備中であるが各組合員の記憶のみで右不足賃金額を正確にし得ない、そこで抗告人組合長は相手方に対しその備付の賃金台帳等従業員の給与労働時間について記載する帳簿の閲覧を申入れたが相手方がこれに応じないため抗告人は右訴の提起が不能である。相手方の右帳簿閲覧申入拒絶は権利濫用による抗告人の訴権侵害である。
七、抗告人は目下前記不足賃金等の支払を求める本案訴訟提起を準備中であるが、右本案判決の確定をまつては貧困な抗告人所属組合員の生活に著しい損害を蒙る結果を生じ、志気阻喪して訴提起も不能となるから、原裁判所に叙上の新賃金並びに生計手当に関する協約の履行と帳簿閲覧の本件仮処分申請をしたところ、原裁判所はこれを却下したので前掲趣旨の決定を求めるため本件抗告に及んだ。
というにある。
本件記録並びに疎明資料によつて当裁判所が一応認定した事実関係に基き判断した理由の要旨は次のとおりである。
相手方が大阪市に本店を置き、岡山市巖井二〇九一番地に工場を有する護謨製品の製造販売を目的とする株式会社であつて抗告人が右岡山工場従業員を以て結成する労働組合であること及び昭和二三年一一月一五日当事者間に抗告人主張の新賃金協約が成立したことは認められるが、右協約の新賃金ベースである所謂平均賃金が抗告人所属組合員の平均賃金であるとの抗告人の主張についてはその疎明がない。却つて右平均賃金は抗告人所属組合員を含めた相手方全従業員の平均賃金であつて相手方はこの謂におけるベースに準拠して右新賃金協約を履行していることが認められるから賃金支払についての本件仮処分はその必要がない。次に抗告人主張の請取者に対する生計手当支給に関する協約の成立についてはその疎明がないから右生計手当支給についての本件仮処分申請はこれを認容するに由ない。又法律上労働組合に使用者備付の抗告人主張の如き帳簿閲覧請求権は認められず、且つ、当事者間の労働協約等で抗告人にこれ等の帳簿を閲覧せしめる旨の定めがあることの疎明もないから、帳簿閲覧を求める本件仮処分は民事訴訟法第七五五条及び同法第七六〇条所定のいずれの仮処分にも該当しない。その申請自体失当である。従つて抗告人の本件仮処分申請は総てその理由がないというべきであるからこれを却下すべきでこれと結論を同じくする原決定は相当であつて、本件抗告は理由がない。よつて民事訴訟法第四一四条第三八四条第九五条第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 植山日二 池田章 藤崎暖)